東京の聴覚障害者の状況と福祉

(1)特徴と組織

東京の聴覚障害者や組織には以下のような特徴があります。

  1. 全国各地から就職等のため、さまざまな聴覚障害者が集まっているので手話やコミュニケーション手段に微妙な違いがある。
  2. 過去ろう学校が11校(私立含む)もあったことや、普通校(難聴学級含む)に通う児童も多かったため、先輩後輩のつながりが弱く組織的に団結しにくい。
  3. ほとんどの区市に聴覚障害者の組織(協会)がある。規模や活動内容は数名から百数十名とまちまちであるが、毎月もしくは年数回の例会等を行っている。
  4. 中途失聴・難聴者対象の手話講習会や読話講習会などのコミュニケーション講座が充実しているため、他道府県と比較して、手話のできる難聴者が多い。そのこともあり、他県と比べてろうあ団体と難聴団体は友好的な関係があるが、現在でも「私は難聴者であってろうあ者ではない」「難聴者はろうあ者を馬鹿にしているから嫌い」と言う人がいる。
  5. 全都的な組織としては、(社)東京都聴覚障害者連盟(東聴連)とNPO法人東京都中途失聴・難聴者協会(中難協)があり、幅広い活動を行っている。全ての区市の聴覚障害者協会は東聴連に加盟しているので、地域の協会の連絡先等は東聴連に問い合わせるとすぐわかる。
  6. 東京は行政による福祉施策が充実している反面、民間組織(聴覚障害者団体)による福祉事業は他府県に比べ遅れていた。しかし、社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会の設立でその遅れを取り戻そうと取り組んでおり、都内主要運動体の代表による組織の「福祉対策会議」をほぼ毎月開催して東京における聴覚障害者福祉のあり方や行うべき福祉事業を話し合っている。2003年にはその話し合いに基づいた「東京聴覚障害者総合センター」構想がまとまり、社会福祉法人を核とした総合的な支援制度を構築すべく福祉対策会議等で具体的な煮詰めを行ってきたが、障害者自立支援法の導入による急激な福祉施策の変動で一時中断し、現在は見直しを進めている。

(2)福祉と制度

  1. 手話通訳都レベルの手話通訳は東京手話通訳等派遣センターが派遣、斡旋を行っていたが、障害者自立支援法の導入(コミュニケーション支援事業として区市町村で実施)により、2007年4月から区市自治体との契約による地域派遣として実施する形に変わった。ほとんどの区市でも手話通訳派遣事業(養成・配置・派遣)を行っているが、通訳養成の期間や通訳者登録の方法等がまちまちのため、区市の通訳者のレベルにも格差があるので、都レベルの派遣と区市レベルの派遣を使い分ける人が多かったが、自立支援法により、使い分けができにくくなっている。

    国の認定制度として「手話通訳士」があるが、東京ではこの「手話通訳士」が通訳のトップレベルでなく、レベル的にはおおむね

    「都派遣センター登録通訳」>「手話通訳士」>「地域(区市)登録通訳」となる。

    手話通訳の主な組織として、派遣センターの登録通訳で組織する「東京都手話通訳者協会」、全国手話通訳問題研究会東京支部として「東京都手話通訳問題研究会(東通研)」があり、他に「東京都手話サークル連絡協議会(都サ連)」も組織されている。

    2003年度に派遣センターの登録制度を大きく見直して、手話通訳士を対象に①面接、②小論文、③読みとりの三点による選考試験に変わった。また、区市の統一試験導入のために東聴連と東通研で話し合いを重ねた結果、現在一部の区市で全国手話通訳研修センターが実施する統一試験を地域の登録試験として導入している。

  2. 要約筆記要約筆記者の養成・派遣も全国に先駆けての実績があり、最近では区市レベルでも実施するところもある。要約筆記者の派遣は渋谷にある東京聴覚障害者自立支援センターが東京都の委託を受けて行っていたが、障害者自立支援法の導入により都の要約筆記派遣事業が大幅に削減され、2007年4月より社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会に事業を移行し、上記の東京手話通訳等派遣センターで区市自治体との契約による地域派遣に移行を進めたが、2009年4月より都のグループ派遣が中止になったため、広域、都レベル団体のコミュニケーション支援が困難になっている。

    区市が独自で要約筆記者を派遣しているところはまだ少ないが、要約筆記サークルはいくつか結成され、「東京都要約筆記サークル連絡会」には約10サークルが加入している。都の登録要約筆記者の組織として「東京都登録要約筆記者の会(登要会)」と「全国要約筆記問題研究会東京支部」がある。

    2003年からパソコン筆記通訳の養成も開始し、2005年より正式に派遣を開始したがまだ登録人数が少なくニーズに応えきれない状況である。

    2006年までは「判定審査」によるランク分けを行っていたが、2007年より要約筆記通訳者の認定試験を実施している。

  3. 聴覚障害者情報提供施設聴覚障害者情報提供施設として目黒にある「聴力障害者情報文化センター」が1991年に認可されているが、以前は、当事者団体と密着した福祉活動や情報保障者に関する事業を行っていなかったため、使いづらい面があった。2008年の相談支援事業ネットワーク立ち上げを契機に徐々に連携がとれるようになりつつある。聴覚障害者情報提供施設のありかたや事業については今後の検討課題であり、聴覚障害者の総合的な福祉支援が可能な都レベルの聴覚障害者情報提供施設が必要である。
  4. 民間施設であるが、渋谷に「東京聴覚障害者自立支援センター」があり、東京の聴覚障害者関係中心団体のほとんどがその運営に関わっているので、幅広い相談窓口となっている。2008年度より地域との契約による相談支援事業を実施、2009年よりスクールソーシャルワークや聴覚障害者対象ジョブコーチ派遣、就労支援事業なども実施している。
  5. 板橋区志村に「東京聴覚障害者支援センター」(旧名称「東京都聴覚障害者生活支援センター」)があり、一時的な生活訓練、生活支援を行っている。急な対応が必要だが、すぐに自立は難しいというケースはこの施設を利用することが多い。
  6. 2002年4月には、全国で5ヶ所目のろう重複障害者入所授産施設「たましろの郷」が青梅市にオープンした。この施設を主体として社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会が2001年2月に認可されている。
  7. 障害者自立支援法による影響

同法により、手話通訳派遣事業、要約筆記者派遣事業とも、「地域生活支援事業」の「コミュニケーション支援事業」として位置づけられ、2007年4月より都直営による派遣事業は手話通訳派遣が廃止、要約筆記派遣事業はグループ派遣のみに縮小された。都と地域の両方を選択できる制度がなくなるのは福祉の後退ということから、区市自治体との契約による派遣の形で都の派遣事業を継続できるよう、都レベルと地域レベルで連携しながらの運動を進め、現在一部をのぞきほとんどの地域が派遣センターと契約し、都レベルと区市レベルの通訳を使い分けられる体制を何とか残すことができた。

また、いままで無料だった手話通訳・要約筆記派遣事業が自立支援法に組み込まれたことで、一部地域では有料となっているが、コミュニケーション支援事業は相互利益ということと、今まで無料だったということから、多くの地域では当面は無料か、社会参加に関する派遣は無料としている。

政権交代により、自立支援法が廃止され、新しい制度がまとめられつつあるが、コミュニケーション支援については、国連障害者権利条約の理念に基づいた独立した法律(仮称:情報・コミュニケーション法)制定のために2011年9月に116万名の署名を国会に提出した。

(3)独自の事業

東京都独自の事業として以下のものがある

  1. 福祉機器貸し出し事業(委託は社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会)OHP、携帯磁気ループ、ビデオプロジェクターなどの貸し出しを行っている。(実施場所は東京聴覚障害者自立支援センター)
  2. 社会教養講座情報の遅れを補うために、都教育委員会が生涯教育の一環として実施。一般向け、高齢者向け、女性向けなどに分かれている。
  3. 手話で学ぶ文章教室語学力、文章力の遅れを補うために都教育委員会が実施している。委託先は(社)東京都聴覚障害者連盟。
  4. 読話講習会中途失聴・難聴者対象の講習会。障害の受容とコミュニケーションの幅を広げるという目的もある。委託は社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会。
  5. コミュニケーション講座コミュニケーションに対する理解と、知識を深めるために都教育委員会が実施している。委託先はNPO法人東京都中途失聴・難聴者協会。
  6. 日常生活用具の支給2006年10月より障害者自立支援法の地域生活支援事業となった。東京都や区市独自で認可している機器(用具)もあるので地域の福祉事務所にどのような機器が認可されているか確認する必要がある。
    2003年度より緊急通報用と情報機器として、文字放送アダプターとの二者択一の形でCS専用放送受信機の給付が決定した。通信機器としてテレビ電話を認可している地域もある。
  7. 緊急通報システムFaxによる110番、119番が1992年から行われていたが、FAx119番が登録制ということで聴覚障害団体が反発していた。2003年4月から警視庁の電話システム改変で直接Faxが可能になった。同年10月から携帯メールやチャットによる緊急通報システムも開始している。
  8. 相談支援事業身体障害者相談員制度があるものの、実態はピアカウンセリングに近い。自立支援法の相談支援事業を聴覚障害者に対応できるよう、都内の聴覚障害者関係施設(自立支援センター、生活支援センター(当時)、情報文化センター、金町学園、トット文化館等)が集まり、聴覚障害者相談支援事業ネットワークを立ち上げている。現在、自立支援センターでは生活や仕事などの相談支援事業やスクールソーシャルワーク、情報文化センターでは生活相談や聞こえの相談、精神保健福祉相談や文化活動支援、聴覚障害者支援センターでは短期入所や就労・生活相談などを実施している。
  9. 2012年1月、聴覚障害者対象の就労継続支援B型作業所「かがやき夢工場」が葛飾区にオープンした。定員20名。(2014年10月より定員が29名に増えた)
(2012年4月)
Print Friendly