福祉対策会議結成までの経緯と現状について

1.福祉対策プロジェクト委員会発足の経緯

1998年から署名などの全国的な取り組みが行われた、「差別法令撤廃運動」を東京で推進するための組織として、(社)東京都聴覚障害者連盟(以下、東聴連)、東京都手話通訳問題研究会(以下、東通研)、東京都手話サークル連絡会(以下、都サ連)で立ち上げた「差別法令改正対策委員会」は、2000年の差別法令の大幅改正に伴いその役割を終えたが、それらの改正が実際に社会に浸透していくまでは取り組みを続けていく必要があるということと、介護保険制度対策を検討するため1999年に東聴連と東通研で設置した「介護保険対策委員会」も、2003年の契約制度の導入に向けて老人福祉の範囲だけでなく障害者福祉全般にかかわる検討が必要になってきたことから、2000年7月にこの二つの委員会を発展的に解散し、東聴連内で「福祉対策プロジェクトチーム」を立ち上げて、この二つの取り組みをさらに発展させていく委員会の設置について検討した。
検討の結果、差別法令改正に対する募金運動で集まった資金を有効に活用する為にも、東京都内の福祉全体を考えていく委員会を立ち上げる必要がある、ということになり、「福祉対策プロジェクト委員会」を設立することになった。
東聴連の呼びかけで2001年4月2日に、かつて情報交換として実施されていた「5団体懇談会」の構成団体(東聴連、東通研、都サ連、東京都中途失聴・難聴者協会(以下、中難協)、東京都登録要約筆記者の会(以下、登要会))が集まって、福祉対策プロジェクト委員会の設置や内容について話し合い、各団体で委員会の設置を確認すると共に更に多くの関係団体へ参加を呼びかけることになり、以後、2001年6月から毎月一回(第一月曜日)に「福祉対策プロジェクト委員会」を開催することになった。
当初は5団体だったが、のちに要約筆記関係団体や親の会、施設関係も加わっている。

2.東京の現状と福祉プロジェクト委員会の検討課題(2001年当時)

(1)東京の現状と総合センター
東京都の聴覚障害者福祉施策はバラバラに実施されており、その中で社会福祉基礎構造改革などの動きに運動体がきちんと対応していく必要が出てきている。
1998年の「東京聴覚障害者自立支援センター」(以下、自立センター)設立と、の2001年の「たましろの郷」を主幹とした社会福祉法人認可に伴い、借り物でない新たな情報提供施設を自らの手で作っていく土台が出来てきている。
こうした状況をふまえ、東聴連内部で何度か協議を続け、自立センターと社会福祉法人を統合する形の東京都聴覚障害者関係事業統合案をまとめた。(2001年5月の東聴連評議員会で発表)この案をより具体的なものとすべく、福祉対策プロジェクト委員会で煮詰め、「東京都聴覚障害者総合センター構想案(以下、総合センター構想)」が2002年10月にまとまった。

(2)総合センター構想(2002年当時)
①当面の検討課題(総論)
福祉制度が措置制度から利用契約制度に移行していることから、現行の福祉制度を再検討し、今後の福祉制度実施に見合った「東京都聴覚障害者福祉制度構想と地域福祉制度との連携」を検討していく。
検討していかなければならない具体的な課題は次の通り。
◎利用契約制度では福祉施策の委託が促進されることから、その受け皿作りを検討していく。あわせて、社会福祉法人、自立支援センター、連盟(社団法人)との関係を整理する。
◎地域福祉が推進されることから、区・市単位での地域福祉の進め方、委託の受け方、都レベルとの連携の仕方などを検討し、地域に指導する。
NPO認可手続き、運営方法なども視野に入れる。
◎こうしたことを都、地域全体で意思統一するためにも、定期的に福祉勉強会を開催する。

②当面の検討課題(各論)
◎東京の聴覚障害関係福祉制度を総点検
◎措置制度から利用契約制度に変更されるにあたっての評価
◎情報提供施設設立のために基本構想検討
◎社会福祉法人、自立支援センター、連盟(社団法人)での委託事業整理
◎介護保険および障害者介護保険制度への取り組みについて
◎NPO設立を含めた地域福祉制度への取り組みについて

③検討したこと
1.全体として
社会福祉制度も老人はすでに措置権限を区・市に移しており、知的障害者福祉も区・市に移された。
また、2003年からは障害者福祉も措置から契約に変わる。
こうした動きを受けて、地域で「どのように対応したらいいのか」という声があがっている。
福祉対策プロジェクト委員会として、統一した取組方針をまとめておく必要がある。基本となるのは、聴覚障害の特徴であるコミュニケーション障害とその保障をきちんと捉えること。

2.委員会での論議の柱
◎措置から契約に変わるものについて、将来はわからないが、今のところ情報提供関係は含まれない。よって契約制度と聴覚障害者協会との関わりについての検討が必要。

◎区・市が福祉事業実施主体となるため、良く言えば区市独自の施策が出来る、悪く言えばバラバラになってしまう。地域福祉格差を生み出さないためには次のような取り組みが必要。
A 手話講習会などの予算獲得の仕方についての情報交換
B 新しい事業について周知(ピアカウンセリング、生活訓練事業など)
C ブロック体制も含めた全都レベルのネットワークの構築
D 地域がNPO化することについての功罪についての検討

◎情報提供施設の建設について
A 現在の「聴力障害者情報文化センター(以下、情文センター)」では地域に根ざした情報提供施 設としての機能を果たしていない
B 厚生労働省の方針では、一地域に一施設と限定していない。地域行政が 認めるなら複数の情報提供施設の建設は可能
C 財政難の中で都政に「施設」設置を認めさせる方法は?
D 受け皿としての社会福祉法東京聴覚障害者福祉事業協会
E 聴覚障害者自立支援センター及び三多摩障害者総合福祉会館との関係

大きな柱として、「介護保険制度」と「情報提供施設」があることを確認し、この2つの専門委員会を設けて(分けて)具体的な検討を進めた。

3.福祉プロジェクト委員会から福祉対策会議へ

そうして、「総合センター構想」を福祉対策プロジェクト委員会でさらに具体化し、社会福祉法人での審議や、東京都との交渉が始まった矢先、その後の障害者福祉を未曾有の混乱に陥れた「障害者自立支援法」がその正体を現してきた。

(1)自立支援法にまつわる経過と状況
2004年8月頃に、介護保険制度と支援費制度の統合に失敗した政府が、三位一体改革を打ちだし、手話通訳事業の一般財源化問題が浮上してきた。
全日ろう連より同年9月25日に「緊急手話対策部長会議」開催通知、要請文が届き、10月16日に東京でも「緊急区市協会手話対策部長会議」を開催することになったが、この問題は手話対策部だけの問題ではないことから、「緊急手話対策部長会議」を「緊急区市協会会長会議」に切り替えて実施し、傍聴も含め22区16市・約200名が参加、熱心な質疑応答、討議が行われた。
予想を上回る大きな問題になりそうなことと、総合センター構想及び情文センターとの話し合いについての意思統一をする必要があることから、東聴連の呼びかけで、10月21日に都内聴覚障害者関係団体(東聴連、中難協、東通研、都サ連、登要会の5団体)の代表によるサミット会議を開催、長期的展望にたった専門的な委員会を立ち上げ(既存の「福祉対策プロジェクト委員会」を発展的に変えていく)と来年の夏前を目処に一丸となった取り組みを行っていくことを確認した。
11月の福祉対策プロジェクト委員会定例日で新組織として構成団体に対してある程度の決議力を持つ「福祉対策会議」に発展的解散する方針を確認し、サミット会議で「福祉対策会議」の基本骨子を審議後、12月6日に福祉対策プロジェクト委員会は発展的解散し、新組織「福祉対策会議」がスタートした。
そして、2005年3月7日の第4回福祉対策会議で、自立支援法についての中央対策本部を設置し、地域にも地域本部を設ける予定との情報から、福祉対策会議構成団体が兼ねる形で、全国に先駆けて東京対策本部を設置し、アンケートや学習会、「聴覚障害者自立支援法地域担当者会議」開催などを取り組んできた。
構成団体(2005年3月7日現在)
社団法人東京都聴覚障害者連盟
NPO法人東京都中途失聴・難聴者協会
東京都手話通訳問題研究会(全国手話通訳問題研究会東京支部)
東京都登録要約筆記者の会
全国要約筆記問題研究会東京支部
東京都手話サークル連絡協議会
東京都要約筆記サークル連絡会
(2010年7月に東京都盲ろう者友の会も加入)

(2)自立支援法、その他について取り組んだこと
1.専門的な取り組み
・福祉対策会議の作業部会では、①手話関係班、②難聴・要約筆記関係班、③相談事業班、④施設事業班、に分かれて具体的なプランを審議。
(現在、各班は役割を果たして解散)
・参政権保障委員会、労働対策委員会、災害対策委員会、教育対策なども包括し、基本方針の確認と各団体の情報を共有。
(2013年3月、参政権保障委員会が正式に福祉対策会議加入)
2.地域との連携による取り組み
・区市加盟協会の定期総会や学習会、行政交渉などに担当委員を派遣。
・中央対策本部の発行した、「コミュニケーションは生きる権利」パンフを約4400部配布・販売。
・都の通訳派遣を残すため、東京都と交渉、区市との契約などを地域を通して交渉。
3.行政、議員との交渉
・都議会各党に都内障害者11団体で公開質問状
・東京都選出国会議員に「障害者自立支援法案の全面見直しを求めます」という文書を提出、第44回衆議院小選挙区立候補予定者(東京)へ障害者福祉施策及び「障害者自立支援法」に関する公開質問状を実施、ホームページにて公開
・自立支援法改正、障害者基本法改正について、東京選出議員への要請行動
・2012年12月の第46回衆議院選挙立候補予定者(東京)へ障害者福祉施策に関する公開質問状を実施、ホームページにて公開
4.他団体とのフォーラム開催等
・自立支援法緊急大行動(後の大フォーラム・日比谷)で情報保障を担当
・いつでも、どこでも、コミュニケーションと生活支援の保障を!全国集会(北区赤羽、案内・会場等を担当)
・自立支援法を考える東京フォーラム(中野ゼロ、情報保障を担当)
・JDF地域フォーラムin東京に発起団体として参加

4.現状と今後について

2004年の結成から、2009年の政権交代による自立支援法の廃止表明まで、自立支援法中心に取り組んできたが、その後は障害者制度改革や(自立支援法対策東京本部から、制度改革推進東京本部に移行)、東日本大震災(聴覚障害者東日本大震災救済東京本部を兼ねる)への支援や対策に取り組み、聴覚障害者制度改革東京推進本部として、WLパンフ普及や情報コミュニケーション法署名活動に取り組んだ結果、東京としては署名を約8万2千名、パンフは約1万3千部という実績を残した。
東日本大震災救援東京本部としても、物資支援や義援金集めを行い、約300万円の義援金を集めている。
現在は、総合センター構想の再構築や、第二の情報提供施設建設に向けての取り組みを再開している。
また、都の派遣事業廃止に伴う、手話通訳等派遣センターの派遣のあり方や、運動協力の派遣のあり方なども継続議題として審議や意見・情報交換を続けている。(会議開催日:毎月第一月曜日)

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