2022年度運動方針

統一テーマ

「デフリンピック東京開催」と「手話言語条例制定」の実現を祝い、それを元にした東京の新しいろう運動の構築をめざして、「福祉事業と連動した体制構築」のために「東京デフリンピック2025の準備」と「福祉制度の学習活動」を進めていこう。

1.東京2025デフリンピック競技大会に向けて、全日ろう連とともに準備や資金造成を進めよう。

 当連盟と全日ろう連で「デフリンピック2025年東京招致」の特別決議が行われた2018年から4年間にわたって、都や都議会への要望、小池都知事との話し合いや国会議員との交渉などを全日ろう連と共に取り組んできました。
 都や議員から「東京2020オリパラの終了後まで待って欲しい」と言われていましたが、待つ間も「デフリンピックフェスティバル」を開催したり、区市から都知事宛の「デフリンピック東京開催を求める意見書」提出運動を展開した結果、ブラジルデフリンピック目前の今年ようやく東京招致が決定しました。
 これも区市協会や関係団体のご支援のおかげであり、皆さまと喜びを分かち合いたいと思います。また、開催基本計画案などの膨大な資料を作成したり世界・国・都を相手に一歩も引かずに交渉した全日ろう連スタッフの努力には深く敬意を表したいと思います。
 しかし、招致決定は始まりです。これから3年をかけて私たちが経験のない規模の世界競技大会を開催するための準備や資金作りを進めることになります。
 規模、資金、人材、どれをとってもかつて経験がない大変なイベントです。
 しかし、その大変な経験、構築した体制、関わった人材が、これからの日本、そして東京の大いなる飛躍につながるのです。
 1991年の世界ろう者会議の東京開催はろう者の文化やアイデンティティを変えました。
 2025年の東京デフリンピックは、ろう者だけでなく、関わる都民や国民に聴覚障害者や手話の存在を知らしめ、変えていくでしょう。
 きたるべき未来のろう運動の構築のために東京デフリンピック2025を成功させるよう全力をあげて取り組んでいきましょう。
 2022年度はその初年度として、体制構築と資金集めに取り組みますので、全都一体となって進めていきましょう。

2.東京都手話言語条例(仮称)制定をもとに、言語としての手話の理解促進と教育における手話言語の活用を進めよう。

 東京の手話言語条例は、差別解消条例にある「言語としての手話の理解促進」をもとに時間をかけて、調査等を行い制定を進める方針でしたが、昨年のオリンピック開会式で無観客、テレビ放送のみになったにもかかわらず、テレビ放送に手話通訳がつかなかったという問題がきっかけとなり、都議会議員の中に「東京にも手話言語条例が必要」という機運が広まり、超党派のワーキングチームが結成されて議論が進められており今年中の条例制定がほぼ決定しています。
 調査等を行う時間が取れなかったかわりに、議員立法としてきちんとした理念や実効性のある条例の制定が予定されており、特に教育面での施策に結びつくことができる見込みなのは議員立法の成果と言えるでしょう。
 区市の手話言語条例にも言えることですが、条例は制定後にどう施策に結びつけるかが重要です。制定後はこの条例が言語としての手話の理解や活用、特に教育面における事業化に結びつくよう都政や議員と引き続き話し合っていく必要があります。
 そのために、私たちも言語としての手話についてやろう教育についての専門的な知識の学習、そしてどのような施策が良いのかという審議が必要になります。

 デフリンピックと手話言語条例という大きな二本の柱をもとに、新しいろう運動の展開、新しい体制構築、新たな人材育成、そして都政との新たな連携強化を進めていきましょう。

3.アフターコロナにおける新しい運動を展開し、電話リレーサービス等を活用した新しい情報支援システムを構築していこう。

 2019年末から始まったコロナ禍は昨年の第五波のあとは感染者も減少し、このまま収束に向かうかと思われましたが、オミクロン株という感染力が数倍も強い新型が発生し、またたく間に過去最多感染を記録する第6波となりました。オミクロン株は肺まで達することが少なく重症化しにくかったため現時点では非常事態宣言にまで至ってはいませんが、まだまだコロナ禍は続きそうな気配です。
 今回の新型コロナウイルスは進化が早いのでオミクロン株の感染力とデルタ株の重症化率を併せ持つ新型に進化する可能性もあり、それに備えての感染防止対策と情報支援がこれからも必要になります。
 コロナと共に生きていくことを想定した「ウィズコロナ」のための新しいろう運動を構築していく必要があります。
 その鍵を握るキーワードはやはり「オンライン」でしょう。遠隔通訳や電話リレーサービスを活用した情報支援の他にも、Zoom等を活用したオンライン手話講座、オンライン講演会、オンライン交流会などがこれからも続くと思われ、書籍販売なども大手のネット販売サービスを活用したり、手話動画をネットで販売するといったデジタルによる収益事業なども工夫していく必要があります。
 これらの取り組みはコロナ禍が収束した後の「アフターコロナ」においても活用できることが期待されますので、それも見越して新たな運動のあり方を検討していきたいと思います。
 それらの取り組みを通して、かねてより熱望されていた24時間支援受付体制やろう高齢者への支援が実現することも期待できます。

4.区市の手話言語条例制定や制定後の施策充実を推進し、地域における情報支援格差の是正を進めよう。

 東京都手話言語条例がまもなく制定できる見込みですが、準備期間の問題もあり地域格差を是正できる条例となるのは難しいと思われます。東京都の個人向け意思疎通支援事業を始められればある程度格差を埋めることはできるかもしれませんが、総合支援法による区市町村主体の意思疎通支援事業は今後も続くと思われ、完全に埋めることは困難でしょう。
 そのために、地域施策の拡充が必要であり、その一つの方策が手話言語条例の制定です。
 都内でも現在18地域で条例が制定されていますが、独立した手話言語条例でなく情報コミュニケーション条例と一緒になった「ハイブリッド条例」が多数です。ハイブリッド条例が全て良くないという訳ではありませんが、手話言語の理念等が曖昧になるなどの問題をきちんと学習し、地域の状況にあった実効性のある条例を行政や議会の理解を得ながら制定していく必要があります。
 市部ではなかなか制定されていませんでしたが、ようやく府中市で制定されました。これをきっかけに市部でも制定が進むことを期待したいと思います。府中市の条例では「手話言語」という言葉が使われておらず、定義も曖昧ですが市政と一緒になって手話言語の理解推進や学校での手話の普及を進めており、実効性のある取り組みをおこなっています。
 これも制定後の取り組みが重要という一例であり、制定したら終わりでなく、条例をもとにどのような取り組みを進めるかが大切ということを示しています。
 こういった実効性のある取り組みを進め、支援格差を解消していくためには、都と地域の連携が肝要になります。連携のために大切なことは「理解と情報の共有」です。現在、会長会議、課題対策会議、地域担当者会議などの場で情報を提供したり意見交換をしていますが参加地域に偏りがあり、それが地域格差や支援格差につながっていますので、まだ制定していない地域や制定後なかなか施策の推進が見られない地域は積極的に都レベルの会議に参加するようして欲しいと思います。

5.福祉事業と運動の連携を学習し、福祉施策の拡充による総合的な聴覚障害者支援体制を構築しよう。

 「公益社団法人東京聴覚障害者総合支援機構」の公益目的事業を充実すべく自立支援センターでは2018年4月から就労移行支援事業所「RONAスクール」を開所、その翌年から指定特定相談支援事業所「RONAプラン」も開始し、通所者も一時は定員になるほど増加し、就労に結びつく人も多く出て順調に運営されています。
 「就労移行支援事業」は就労に向けて必要なことを学ぶだけでなく、職場定着支援のほか、将来的には就労継続支援B型事業所の運営などさまざまな職業支援に結びつけられる可能性があります。
 手話通訳等派遣センターやたましろの郷を運営する社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会や東京都の情報提供施設として認可されている社会福祉法人聴力障害者情報文化センターもコロナ禍の影響もあって事業の見直しを行っており、社会福祉法人制度改革施策などで運営のあり方が変わってきています。
 入所施設も東京聴覚障害者支援センター(旧・東京都ろうあ者更生寮)は建築50年以上が経ち建て替えることが決定し、今年の2月には新しいろう児施設「アレーズ秋桜」が開所しました。しかし、こういった入所施設も入所期間が過ぎた入所者をどう支援するかが課題となっており、グループホームのような継続できる入所施設が必要になっています。
 これらの動きにうまく乗ればバラバラだった東京の聴覚障害者施設が何らかの形でまとめられる可能性がありますし、念願だったろう高齢者施設建設の可能性も出てくるかもしれません。
 そのために、福祉施策や施設建設や運営についての具体的な学習が必要ということで2年前から取り組んでいます。「東京の聴覚障害団体は運動の力はあるが福祉についての勉強が足りない」という声があります。振り返ってみると自立支援センターを除く都内聴覚障害者関係施設や事業所の運営は保護者や支援者などの聞こえる人中心で行われてきています。
 当事者である私たちがこれらの運営に関わるために、福祉制度の学習に力をいれることとそれを担う人材の発掘と育成が必要です。全日ろう連が作成した「地域に生きる拠点を創る」などを使用した学習会などを行う方針を2年前から計画していますが、ちょうどコロナ禍と重なりなかなか学習会が開催できないでいます。オンライン学習会も定着してきましたので、これらを活用して将来に向けた学習を進めていかねばなりません。

6.ブロック制の活用、防災への取り組み、高齢者支援、教育支援などを推進しよう。

 東西南北4ブロック推薦による役員体制が始まってから4期8年が経過しました。ブロック担当が会員拡大や後援会支援などの役割を分担したり会員の声を聞く会を開催するなど活用が進められています。
 ブロック体制が機能し、ブロック選出役員が活発に取り組むことが、地域の運動や東京の聴覚障害者福祉の発展につながることをさらに理解していただき、加盟全区市協会が積極的にブロック活動に参加するようお願いしたいと思います。
 前項の運動と福祉施策の連携を実現するためには、ブロックの中での学習も重要になります。例えばブロック毎の高齢ろう者グループホームが建設できれば、それらの事業に従事する人材が増加することになります。
 京都、大阪、埼玉、千葉などの取り組みを参考に、福祉施策による事業従事者のろう運動への関わり方を見直し、聴覚障害者福祉事業と運動が一体となった体制を構築したり、デフリンピックに向けての準備を進めるために聞こえない職員も増えることになりますが、デフリンピック終了後にこれらの人材が福祉施設や事業所の職員として活躍できるよう、施設・事業所建設運動や連携を進める必要があります。
 そうすれば必然的に運動のための人材も充実することになりますので、当連盟事務局長をはじめとする高齢化した団体・施設の管理責任者の後任確保などが進むことが期待できます。
 手話言語条例制定により教育機関との関係も深まるでしょう。アレーズ秋桜もろう児入所だけでなく地域支援も計画しています。
 施設・事業所の人材が増えることで、非常時の支援体制も構築しやすくなると思われ、教育支援・高齢者支援・地域支援・災害支援などに結びつく取り組みとなるよう進めていきましょう。

おわりに

 デフリンピック東京招致と東京都手話言語条例制定という大きな悲願が二つとも実現した2022年ですが、この年が東京都のろう運動の歴史に残る年になるかどうかはこれからの取り組みにかかっています。
 2022年が将来「東京が変わった年」と語り継がれるよう、そしてSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる「誰一人取り残さない社会」の実現のために、これからの東京のろう運動はどうあるべきかを見据えながらこの記念すべき年の運動を展開していきましょう。

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